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〜略せばハピマテ〜
『ハッピーバースデー松笠の帝王(予定)』
「なあ、レオさぁ」
フカヒレが湯気で曇った眼鏡を拭きながら話しかけてくる。
「フーフー、ズズ……なんだ? 金なら貸さんぞ」
レンゲに掬った熱々脂ギッシュスープを飲み干してから牽制しとく俺。あー、やっぱ寒い日にはコレだよな。
「いやそんなお約束はいらねえよ! そうじゃなくって、オマエもしかして姫と上手くいってねえの?」
「ケンカ売ってんのかテメェ順風満帆らぶえろだよマジで殺すぞコラァ!」
「キレながらノロけるなよ!? ……んで、らぶえろってどんな感じ?」
「絶対教えてやらん」
「そんなこと言わずに教えてくれよぉ!」
「やだね」
エリカのアレやソレなアハンウフンなんかは俺だけの秘密であればいいわけで、間違ってもフカヒレなんぞには教えられん。
「ちくしょう、なんか腹立つ……一体姫とどんなことを……ハァハァはぶべらっ!?」
でないとこんな風にすぐ妄想入るからなぁコイツって。
俺はいい具合に裏拳が人中に入って悶絶してるフカヒレを見下ろして優しく忠告してやった。
「俺のエリカで勝手に妄想すると危ないぞ? 物理的に」
「おーおー、熱いねえ。俺のエリカときたもんだ」
スバルが囃したてるが腹は立たない。こいつは本気で俺のこと祝福してくれるし、色々気ぃ使ってくれてるからなぁ。
「ズルズル。へっ、ヘタレなやつほど普段よく吠えるよね。オメーそれ姫の前でも言えんのかよ」
「やかましい、トリャッ」
「なぁぁっ!? ボ、ボクのメンマがぁっ。テメーは、なんってことしてくれやがんだ!」
麺をすすることに意識がいってお手元が留守ですよなカニの丼からメンマを二片強奪。うむ、このシャキコリ感が美味である。
俺は勝ち誇った顔をカニに見せ付けてやった。
「あ、カチーンと来たね今の。ボクの食い物の恨み見せちゃらあぁぁぁりゃあっ!」
なっ、箸が霞むほどの高速で具を奪い去りしかもスープにはまったく波を立てないだとぉ!? こいつ、無駄に高いスキルを!
「テメっ、カニ! メンマとチャーシューじゃ釣り合いが取れないなんてもんじゃねえぞ!」
「ひぇん、ひゃんはいはへひはへ」
季節的にちょっとサンタ衣装っぽくも見えるボア付き赤コートに食べカスを飛ばしつつカニがホザいた。ええい、アホ毛アンテナもない分際で生意気なっ。スバルもそんなヤツの服を甲斐甲斐しく綺麗にしてやる必要なんかないぞ。
「三倍どころで済むか! くぬやろっ」
「ぬあああああっ!? ボクの味付き玉子がー!」
「おーい、オレはさんで具の奪い合いすんなよなぁ」
顔に鶏がら豚骨スープを飛ばされる被害を受けたスバルが抗議の声を上げる。
「あ、わり」
昔からいつもカニは俺の隣に座ってたんで、間に入る人間への配慮なんて考えたことなかったからなぁ。座席位置もそうだけど、なんか最近カニに微妙に一歩距離置かれてる気がするんだが。
「スキありぃぃぃぃっ!!! ボクのターン、攻撃表示!」
「うおっ、最後のチャーシューを!?」
「更にボクはカードを一枚場に伏せてターンエンドだ!」
うわ信じられねえ、こいつ自分の丼にツバかけやがった! 伏せるも何も見るからにトラップカードじゃねえか!
やっぱ距離置かれてるとか絶対気のせいだちくしょう! つーかチャーシューしか狙いやがらねえしこの肉食蟹。
仕方ないので湯気が空しくたなびくフカヒレの丼からチャーシューを補給する俺。もちろんもうカニに隙は見せん。
「ってて、なんで俺倒れてたんだろ……ってあれ? 俺、チャーシュー残してなかったっけ?」
「気のせいだろ」
口をモゴモゴさせながら俺。ち、醤油味の付いたチャーシューは俺が求めたものではないというに、カニめ。
「そうだっけ……いや、やっぱ気のせいじゃねえって! っていうか思い出した、俺が気絶してたのってレオのせいじゃん!」
「違うだろ、フカヒレが気絶したのはあくまでオマエの自業自得だ。ちゃんと俺は忠告したろ? 危ないぞって」
「えぇーそうだったかなぁ……」
「そうだったとも」
おっかしいなぁと独りごちながらも確信がもてない様子のフカヒレ。うむ、さすがに急所に入っただけあって見事に記憶が混濁してるなあ。今後あの攻撃はフカヒレ以外には封印しよう。
「まあ俺のせいならしょうがないか……それより姫とのことだけどさ」
「あん?」
まだ懲りないのかコイツ。俺はさりげなく拳を握って二撃目を入れる用意をする。
「上手くいってるなら、なんでまたこのクリスマスに俺たちと屋台でラーメンなんぞ食ってんのよ」
「…………言うな」
最終的に決めたのは俺自身とはいえ。改めて指摘されるとやっぱりちょっと悲しいものがあるのだった。
◆
俺、対馬レオ「その時のテンションに身を任せるなんて愚かなことだ……くだらない」って、カニ! 人のナレーション邪魔すんなよ! ったく……改めて、俺は松笠のお姫様こと霧夜エリカ「あぁ、姫、姫キレイだなぁ〜 たまらないな〜 でもテンションに身を任せたくないしな〜」カニィィィィ!!!
※スバルがカニを引っ張って退場させています。しばらくお待ちください。
……オーケー? よし。
俺、対馬レオは松笠のお姫様こと霧夜エリカと付き合っている。まあ当初は恋人関係というよりまんま姫と召使いであり、今もどっちかというと俺が姫の愛人であると言った方が近いのだが、結構上手くいってるし満足もしてる。確実に前進してるしな。
初めなんか……カニの言うとおりなのは癪だが、俺は姫に憧れるばかりで、でも近付く努力すら躊躇われて、な状況だった。それが変わったのは、ずっと敬遠してきたテンション任せの行動を起こしたからであり、後押ししてくれたスバルのおかげでもある。ホント、あいつには昔っから世話になりっぱなしだ。
テンションに身を任せて良かったと思えたのなんかもしかしたら初めてで、しかもそれが人生最大級の幸福を呼んだんだから軽く人生観が変わるくらいの衝撃だ。そのせいかここ数ヶ月俺のギアは入りっぱなしで、エリカに見合う男になるための努力で毎日が充実してる。おかげでエリカとの関係も極めて良好ときてる。
だから間違ってもフカヒレの言うような、俺が姫の機嫌を損ねたとか見捨てられた(逆のパターンはないんだよな……)なんて理由で俺たちはせっかくのクリスマス、正確にはイブを別々に過ごしているわけじゃない。ないのだが……。
やっぱり誘いを受けとけば良かったかなぁと、今軽く後悔してる。
◆
一週間前のことだ。俺とエリカは例によって例のごとく、生徒会室で残業していた。
いやちゃんと仕事してたんだよ? ……他のコトもそりゃしたけどさっ。だって、家には乙女さんがいるんだから仕方ないじゃないか……俺だって若いんだよ。
ともかく、俺はちょっと情けない気分で後始末をしてて、エリカは机に座って見てるだけで、その時だった。彼女が俺に呼びかけたのは。
「ね、対馬クン」
付き合う前と変わらない呼び方。俺はもうずっとエリカとだけ呼んでるのに、彼女はこうやってちょくちょく苗字で俺を呼ぶ。
「レオって呼んでよ」
「やですー。言ったでしょう? 私、対馬クンって響き、結構気に入ってるんだってば」
一応半々くらいでは名前で呼んであげてるんだから我慢しなさい、とエリカは俺のおでこを指で突付いて子供をなだめるみたいに言った。
「ちぇっ。いいさ、いつか俺のこと絶対苗字では呼べないようにしてみせるから」
霧夜レオ。うん、悪くないよな。……対馬エリカはまずありえないんだろうけど。
「へえー、ふぅーん?」
エリカはニヤニヤとそんな想像に耽る俺を見て笑った。
「何だよ、すぐにそんな風に笑ってなんかいられなくしてやるさ」
「フフ。そうね、頑張ってるものね、レオ。ここ最近の貴方、すごくいい感じよ」
だから期待して待っててあげる、と今度は俺の鼻をツンと弾いてエリカは嬉しそうに微笑んだ。
「…………」
その時の俺はそりゃもう一言では言い表せないくらい喜び一杯で、やる気が一気に三倍になったね。エリカの真っ赤な下着も見えてたし!
でも後になって考えてみれば、エリカはお嬢の嗜みだとかいう物理法則を超越したスキルでスカートの中を秘匿してるわけで。偶然見えるなんて幸運はまずありえない、ということは……あれ? もしかして俺調教されてる?
「ま、その日が来たらさすがに私も改めるけど、逆に言っちゃえばそれまではこのままってことで。なんだったら対馬クンも私のことまた姫って呼んでもいいわよ? 王には届かないけど、姫って呼ばれるの結構気に入ってるのよねー」
実は俺も姫って呼ぶの割と好き。でも、ほら? 男としては自分の彼女はやっぱ名前で呼び捨てたいわけで。
「……まあ、機会があったらね」
とお茶を濁しといて、後片付けも終了。さあ帰ろうと鞄を手にしたら。
「──って、ちょい待ち。さっきは話逸れちゃって、結局私の用件対馬クンに言ってないじゃない!」
おおそういえばってなもんだ。俺はポンと手を打った。
「もう、対馬クンといると調子狂うんだから」
「あ、また対馬クンって言った。三回連続だよ、半々じゃないじゃん」
「えぇい、細かいことグチグチ言うんじゃないのっ、だから話がズれるんでしょうが!」
いや、でもね? 関係が前に戻ったみたいで軽くヘコむじゃない? やっぱりそこは譲りたくないわけで、だから俺はガツンと言ってやったね。
「う、うん……ごめん。どんな用件かな?」
俺よえぇー! しかも「う、うん」ってなんだ「う、うん」って、せめて男らしく「おう」とか飄々とした余裕を見せて「へいへい」とか言えないのかよぅ!
でもエリカは従順な俺を見てご満悦。やっぱり知らず知らず躾けられてるのかな、俺……。
「素直でよろしい。誘うの止めようかって一瞬思ったけど、ご褒美にやっぱり招待してあげる」
このご褒美って言葉がいけないのかもしれない。なんか「いい子にしてよかった」とか思ってしまう魔力がある。そういえば乙女さんもよく「ご褒美だ」って言って頭撫でてくれたりするんだけど、あれもメチャクチャ嬉しいんだよなあ。──やべえ教育って超怖い!
と、分かってはいてもやはり抗いがたいわけで。
「……えっと、何に?」
うわ、俺まるで骨に飛びつく犬みたい……もしくは芸をしたら魚もらえる水族館のイルカ。HAHAHAッ、──飼われてますか俺ー!?
「クリスマスにね。ま、正確にはイブなんだけど、私パーティに出るのよ」
それはまあ、ある程度予想というか覚悟はしていた。エリカはあの世界的超大企業霧夜カンパニーの社長令嬢だし、親の跡目を狙う野心家でもある。ライバルも多い彼女にとって、己の大望のためにもいわゆるハイソな方々の集いに出席することは、人脈確保のために欠かせない重要事なわけで。たとえ両想いだろうが恋人同士の重要行事を共に過ごせないことを認めるくらいの度量がないと、エリカと付き合い続けるなんてとても不可能なのである。
だけどもちろん、一緒にらぶいイベント・デーを過ごせるならそれに越したことはない。
「レオも一緒にどう? パートナーとして、私をエスコートさせてあげるわよ?」
だからエリカの意外な申し出は、俺にとって非常に喜ばしいことであったのは間違いない。少なかれ、それは俺が彼女に認められているという証なんだし。
でも、俺は──、
「いや、今回は遠慮しておくよ」
即答と言うほどではないが、それでもほとんど間をおかずに断っていた。
「……なんで?」
多分断られるなんて考えてもみなかったんだろう、エリカはただ呆然として理由を聞いてきた。
とはいえ俺も口にして説明出来るほどには自分の考えが整理出来てなかった。なにか自分の中で引っ掛かるモノがあって、反射的に断っていたからだ。
俺がなんとか、自分の中の曖昧なモノを言葉にしようと苦労していると、だんだん自分の誘いが断られたという事実が浸透してきたのだろう、エリカは見るからに不機嫌になっていった。
「ちょっとレオ? 一体どういうつもり」
今度はレオと、連続で呼んでくれた。少しは俺の頼みを配慮してくれたのかなーとか、安上がりに喜んでたら、なんとなく自分の気持ちが分かった気がした。
「俺はまだまだだから」
「はあ?」
怒ったことでちょっと鋭角に吊り上ったエリカの眉が困惑に揺れた。
「俺はまだまだエリカに追い付けてないから」
簡単なことであっさり喜ばされてしまったり。別にそれが悪いってわけじゃないけど、対等というには程遠い。そんな自分に、エリカの戦場でエリカの隣に立つなんて名誉が与えられるのは、誰より俺自身が許せないんだ。
「……何を言うかと思えば、そんな当たり前のことを。今のレオが私に全然釣り合わないのは当然でしょ、そんなの承知で付き合ってるんだから私は構わないわよ」
「俺が構う。俺のせいでエリカが侮られるなんてことがあったら、我慢ならないし」
「私は気にしないって言っても?」
「うん。あんまり甘やかさないでよ、俺って結構お調子者だからつい怠けちゃいそうになるし。エリカに見合う男になる日がまた遠くなっちゃうからさ」
「……言ったことなかったけど。パーティ会場でもモテるわよ、私。当然相手は顔も家柄もA級以上の優良物件ばかり。いつかはなんて、そんな悠長なこと言ってていいのかしら?」
「信じてるから。それに、もし奪われてもすぐに取り返してみせるさ」
はっきりと口にしたことで、ただでさえ熱くなってたテンションがグツグツと煮え滾ってきた感じ。すぐさま走り出したいくらい、乙女さんに一晩中厳しくシゴかれたって気力は全然減じないと思えた。
「頑張るよ。今までも頑張ってたけど、これからもっともっと頑張る。だから今は期待だけしててよ」
待っててとは言わない。俺は、前に進み続けるエリカに追い付いてみせる。
これでエリカの頬がちょっと赤らむくらいなら俺も少しは自信が持てるけど、今の俺ではしょうがないなぁといった風情の苦笑を引き出すのが精一杯だ。
「……ん、わかった。レオがやる気になってるなら私にとってもいいことだもんね」
それでも、こうして譲歩を得ることが出来るようになってるんだから、数ヶ月前の俺とは雲泥の差だ。自分の努力が分かりやすく結実するのって素直に嬉しい。だから俺はまだまだいくらでも頑張れる、エリカを目指せる。
でも残念ね、と呟き、エリカは続けた。
「うちの両親も来るから、カレシとして紹介してあげようと思ってたんだけどねー」
「いぃっ!?」
あからさまに動転した俺をニヤニヤと小悪魔みたいな意地悪笑顔でからかうエリカ。
……この関係だけは、いくら頑張っても改善されないのかもしれない。
◆
「──というわけだ。分かったか?」
美味いがクリスマス・ディナーとしては随分とわびしい食事を終え、俺たちは適当に辺りをブラつきながら俺の家の方向へ向かっていた。道すがら俺は俺が姫とクリスマスイブに一緒にいない事情を一部モニャモニャなところを伏せながらフカヒレたちに教えてやったわけだが、連中はどこに注目したんだか、次々と失礼な感想を述べ始める。
「ああ。オマエがヘタレだってことがよぉく分かった」
「オメー姫に弱すぎ。こっちが情けなくなってくらぁ」
「ま、レオにしちゃぁ頑張ったんじゃねえの?」
そんな幼馴染たちの心温まる言葉に涙が出そうになるね俺は。
「パーティの誘いを断ったとこまでは悪くないけど、それで今後悔してるってありえなくね?」
「ま、ヘタレのレオじゃしょーがねえよね」
「だがそこがいい。世話のかかる子ほど可愛いもんさ」
スバルは別の意味でやめてくれ。そんなセリフがエリカの耳に入ったらまたどんなネタにされるか分かったもんじゃない。
「あはは世話のかかる子だってよ、レオ馬鹿みてぇ」
「オマエ自分が俺とスバルに今までどれだけ世話かけさせたか分かってそれ言ってんだろうな?」
馬鹿笑いするおバカな子のほっぺをむにぃーっと引っ張る俺。おお、甲殻類のくせにまるで餅のように伸びるなぁ。
「いひゃいいひゃい」
そして例のごとくカニの目には涙が。
「オマエってほんと涙腺ゆるいなぁ。脳みその元栓の締まりが足らないからか?」
「いきなり乙女の柔肌ほっぺ引っ張り放題したあげく言いたい放題たぁいい度胸してんじゃねえか、覚悟は出来てんだろうなこのヘタレオがぁ!」
「はん、そんな小学生レベルの仇名、何度言われたところで痛くも痒くもないわ」
「レオのヘタレー、ヘタレキングー、ヘタレオブザイヤー」
「誰が何と言ってもいいと言った!」
「オマエら飽きないなぁ、そのやり取り」
「ごめん、フカヒレとの会話はもう飽きちまったからもう話しかけないでくれるか」
「そんな寂しいこと言うなよ!? いや、言わないでくださいお願いします」
幼馴染の軽いマジトークもといジョークに卑屈になりまくるダメ男。このフカヒレにすらヘタレと言われる俺って……ヘコミオブザイヤーですぅ。
「しかし、お姫様は今頃いいモン食ってるんだろうに。オレたちはラーメンときた、どうよこの格差」
「やっぱクリスマスにラーメンは無かったかもね」
「待て、ラーメン食いに行こうって言い出したのはオマエだろうがフカヒレ」
「だって他の場所ってカップルばっかりじゃーん。んなとこ行ったら、俺ぁ怒りのあまりしっとマスクと化しちゃうね」
らぶらぶなカップルはいねぇがーと吠えるフカヒレと露骨に距離をとる俺たち。
んな情けないことを堂々と言い張るなっての。……まあ、俺も今日ばかりはその気持ちは分からんでもないけど。よく考えたらパーティってことは当然着飾るんだろうし、俺は恋人のドレス姿も見逃したってことじゃないか? くそっ。
「おいおい、どうしたよレオ? ただでさえ大したことねー顔が嫉妬でフカヒレのように醜く歪んでるぜぇ、へっへっへ」
「せめて俺と同じように嫉妬で、って言えよ! それじゃまるで俺が不細工みたいじゃんっ」
「なに言ってんだコイツ? エロゲーのしすぎで現実を認識出来なくなったんか? もとからだけど」
「おいカニ、ホントのことだからってストレートに言うなっての。五つの誓い三つ目、『デブにストレートにデブ言わない』の応用だろ?」
「誰も俺のフォローはしてくれないのかよ……」
「男は顔じゃねぇ!」
「またそれかよ! つーか、イケメンのスバルに言われてもムカツクだけじゃん!」
クリスマスだってのに、いつもと変わらないよなぁ俺たち。まあこの空気は、やっぱり俺をどこかほっとさせてくれるんだけどな。
だがとりあえずカニの暴言に対してだけは反論しておかねばなるまい。
「ふざけんなよ? いくらなんでもフカヒレみたいな顔にはならねえっての」
「そこに怒るのかよ!」
あ、違った。譲れんとこだったんでつい。
「じゃなくて、確かに一緒にパーティには出なかったけど俺はこのあとエリカと会う約束してるからフカヒレのような真の負け犬じゃないぞ」
「……っ」
「なぁにぃぃぃ!? 聞いてねえぞ、どういうことだっ、てかまた俺そんな扱いかよ!」
「どうもこうも、姫がパーティ終わったら二人で会ってプレゼント交換するって話だろ? オレは聞いてたぜ」
「あれ、フカヒレには言ってなかったっけ? まあどうでもいいけど」
「……なんか俺、もしかして結構嫌われてんのかなって思うときあるよ……」
「へえ、どんなときだ?」
「まさに今だよ!」
「泣くなよ、気持ち悪いなぁ」
「しどい! そんな冷たい態度とって、あたいとのことは遊びだったのねぇー!」
マジで気持ち悪かったので無視をした。視覚聴覚からフカヒレをシャットアウト、すると触覚がなにか気色悪いものを感知したのでとりあえず殴っておく「ぶへらぁっ」。
「あー、そういやプレゼントどうすっかなぁ」
「あん? まさか当日だってのにまだ用意してないのか?」
「いや今日の分は当然もう買ってる。でもすぐ一週間後がエリカの誕生日だからさぁ」
「あぁなるほど。そういやそうだっけか」
クリスマスのすぐあとに誕生日、さらに次の日はお正月。一般家庭なら子供としてはかなり面白くない事態になるであろう配置だが、エリカにもっと好かれるべく日夜努力を続ける俺がそれらのイベントを一緒くたにするわけにもいかない。
女の子へのプレゼントはカニがいたので慣れていないわけじゃないが、相手があのエリカとなると頭悩ませられる問題である。それが連続するんだから、ホント困ったもんだ。
「今日のは割と楽に決まったんだ、少し前エリカがちょこっと希望っぽく欲しいもの漏らしてたし」
「へえ。何買ったのか聞いてもいいか?」
「ボトルシップの材料。俺の趣味がどんな感じか興味あるから、作り方教えてくれってさ」
「ほー、それはそれは。仲のよろしいことで。妬けるねぇ」
ひょいと肩をすくめるスバル。最後のは聞こえなかったフリして、ちょっと照れるな。
「ま、仲睦まじく手取り足取り教えんのもいいが、熱くなり過ぎないようにな」
「……気をつける」
ボトルシップのこととなると人格変わるからなぁ俺。自覚しててもどうにもならんというこの根深さ。しかしそれでエリカに嫌われたら堪らないので一緒に作る時は命がけで自制しよう。すまんな俺の魂(ボトルシップ)、俺にとってはもはやオマエ以上にエリカが大切なのだ。
「密着するからってサカるんじゃねえぞぉ、坊主」
「そっちかよ!?」
ったく、頼りになるけど、こういうとこやっぱスバルも俺たちの幼馴染だよなぁ……っと、そういえば幼馴染残りの二人が静かだな。
「フカヒレ……は別にどうでもいいけど」
「よくねえよ!?」
見えない聞こえない。
「カニ、オマエどうしたんだ? さっきから妙に静かじゃないか」
いつものカニなら今の会話に割り込んで、ボクにもクリスマスプレゼント寄越しやがれーっ、とか言いそうなもんだが。
「……別に、なんでもねーヨ。お腹一杯になったらちょっと眠くなっただけだって」
「ならいいけど、って電話だ」
しかもこの着信音はエリカからだ。
「けっ、このヤロウまーだ姫からの着信音だけムーディなのにしてやがんし。バッカみてーだね」
「なにからんでんのオマエ?」
「うるせーオメーなんカフグガッ」
「ホラホラ、飴ちゃんやるからちょっと大人しくしてようぜ子蟹ちゃん」
すまん、スバル。
いいってことよ。
幼馴染パワーでスバルとアイコンタクトを交わし、電話に出る。これ以上待たせるといきなり「遅い!」って怒鳴られちゃいそうだったので助かった。
「もしもし、エリカ?」
『ジュワイユ・ノエル、対馬クン。ご機嫌いかがかしら?』
「今エリカの声が聞けたから最高」
「ガリボリボリ!」
うわ、カニのやつ一気に飴三個噛み砕いてやがる。なにがしたいんだコイツは。
『へえ、可愛いこと言うじゃない。こないだ私の招待を断った男と同一人物とはとても思えないわねー』
……もしかして根に持ってる?
「はは、あは。ところでどうしたの? 待ち合わせ時間までまだあるよね?」
『あー、対馬クンてば鈍いんだぁ。これは減点ものねー』
「え、いきなりなにそれ」
『もう、ダメねぇ。ちょっと時計見て御覧なさいな』
時計? もしかして俺、待ち合わせ時間勘違いしてたとかかな。それってかなりマズイんだけど。
「えーと、十二時十五分前だね」
『そうでーす。今日はあと十五分で終わっちゃうんでーす』
「? えと、だからなに?」
エリカの盛大な溜め息が電波に変換されて俺に届く。いや、でもマジで分からんし。
『あのねぇ対馬クン、今日は何日? そして一般になんて呼ばれてる日?』
「今日は二十四日、クリスマスイブ……」
『そう、イブ。恋人たちが甘い夜を送る日でしょぉ? そーんな大切な日が、あと十五分しか残ってないのよ? 私たち、今日はいちっども顔あわせてないっていうのに!』
え? それってつまり、なんだ。もしかして。
『せめて声だけはと思って電話をかけたのに、対馬クンはちっとも気にしていなかった件について。なんかもう冷めちゃったなー、切っちゃおうかしら』
「ちょ、ちょっと待って、俺が悪かった! ごめん、この通りだから切らないでよっ」
見えっこないのに頭を思い切り下げる俺。カッコ悪いけど、エリカからこんな行動起こしてくれるなんて滅多にないので、なりふり構っちゃいられない。
『んー、反省してる?』
「してる。ものすごくしてる」
『ならよし。いい、レオ? 今日はイブ、カップルの最重要イベント。そんな日に恋人どうしが一緒にいないなんて、ホントは許されないんだからね。せめて電話くらいしなきゃ、絶対嘘なの』
まさか彼女がこんなにも俺のことを想っていてくれてたなんて! 俺泣いちゃいそう!
「エリカ……」
『って、よっぴーが言ってた』
「………………………OTL」
『あはは、もしかして私が本気でそんな風に考えてるって思ったー? そーんなわけないでしょうが、バカねぇー』
俺泣いちゃいそう……。後ろでカニが大爆笑してるし。ちくしょう盗み聞きしてやがったな甲殻類め。
「マジでバカだねーレオのやつ、だからオメー程度が姫に相手されるわけがないってボクは何度も忠告してやって、って、あんだ? よっぴーからメール着たぞ?
えーと何々、<私言ってないよ>……ってなんじゃこりゃあぁぁぁぁ!」
「貸せっ」
俺はカニの携帯を奪い取り、佐藤さんからのメールにカニにも迫りそうな高速タイピングで返信する。
<それホント?>
佐藤さんからの返事もすぐに来た。
<うん、パーティが終わった途端、対馬君に電話するってエリーが言い出したんだよ。こんな殊勝なことするエリーなんて、今後もう二度と見れないかも。ラッキーかな(^o^)>
うわ俺も生で実物見たかったー!
<なんて羨ましい!>
<こっそり写真撮ったよ、そわそわするエリーって可愛いの。あとであげるねv>
ネ申キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!! 佐藤さんキミって最高だ!
『ちょっとレオ? コラー対馬ー返事がないぞー!』
あ、しまった。すっかりこっちほったらかしてた。
「ごめんごめん、ちょっとボーッと」
『むぅー、だからって私を無視するにゃー!』
……にゃー?
不思議な語尾に疑問符を飛ばした俺は、また佐藤さんにメールを送る。
<さっきから気になってたんだけど、もしかしてエリカって酔ってる?>
<うん、エリー大分お酒飲んでたから。ちょっと酔ってるかも>
珍しいなぁ。エリカってかなりアルコールには強かったハズだけど。それに酒に呑まれるなんて無様な真似絶対嫌うハズなのに、なんでまたそんなに飲んだんだろ。
と、俺が首を傾げたのを読んだようにまた佐藤さんからのメールが着た。
<対馬君がいなくて寂しかったからかもね?^^>
思わず顔が赤くなったのを感じる。……そうなら嬉しいなぁ。
『ちょっとよっぴー、何やってるの? ……って、なによそのメール!? よっぴー貴女まさかっ』
『あ、気付かれちゃった』
通話状態のままの俺の電話の向こうから、エリカに加えて佐藤さんの声も聞こえてきた。
『コラ、それ寄越しなさい! あることないこと誰かに吹き込んでないでしょうね!?』
『きゃっ、ちょっとやめてってばエリー、これはだめぇー!』
『ちぃ、逃がすか! ──レオ! 貴方も待ち合わせ場所で覚えてなさいよ!?』
エリカの怖い捨て台詞で通話が切れた。ほとんど同時に、今度はカニのではなくちゃんと俺の携帯に佐藤さんからメールが着た。件名は<ほぞん どこか たのむ>。添付ファイルにはもちろんエリカのウワ、ア、オオオ!?な写真。俺は即自分のパソコンにこのメールを転送した。
保守っと。
◆
クリスマスのプレゼント交換も無事終わって三日。俺は未だにエリカへの誕生日プレゼントを決められないでいた。
「さすがに焦ってきたかも……」
なにせ気難しい人間だし、おまけにワガママで欲張りで意地っ張りで傲慢で無神経でセクハラ大好きなオヤジ系で興味ない相手にはとことん冷淡で、とにかく気に食わないプレゼントなんて贈ってしまった日にはどうなるか分かったもんじゃない。なんか最悪と紙一重な人間だけどでも愛してるぜ。
「って、一人でノロケてる場合やないやろがー」
ビシッと虚空で手の甲を返しセルフツッコミ。いかん、体感温度が下がった……ちょっと疲れてるかもしれない。
とにかくこのままじゃマズイ、何をプレゼントすればいいかじゃなくて何をプレゼントしたらダメか考えて、消去法で選択肢を定めていこう。
まず真っ先に消えるのは芸術品。エリカの美的センスは個性的過ぎるので、芸術に疎い俺じゃなくても何が彼女の気に入るかなんて分かるわけが無い。私服はオカシクないのでファッションセンスはあるんだろうが、こっちは逆に俺が足りない。カニに指南を受けるわけにもいかないしな、アイツクリスマス以来何故かずっと不機嫌だし。
アクセサリーなんかは普段から身に着けてもらえるなら俺も嬉しいけど、エリカがピアスとかネックレスを付けてるとこを見たことがないのが問題だ。装飾品の類はあまり好きじゃないのかもしれない。……指輪は、もっと別の機会にあげたいしな。
次に定番なのかもしれないが、宝石類は外さなければならない。これは純粋に俺の資金力不足。平凡な学生に買える程度の安っぽい宝石じゃ、大金持ちのエリカの眼鏡に適うはずもないだろう。
とはいえ彼女はゴージャス好きで、特に金色や赤色を好むがけして成金趣味ではないので何でも高価であれば喜ぶというわけでもない。安物過ぎず、俺なりに奮発したと分かってもらえればいいのだ、それって実はかなり難しい条件だけど。例えばエリカはネコが好きだからネコの小物なんかは喜んでもらえそうだが、そういうのは日常のデートでちょっと気に入ったものを買ってあげたりするのがいいわけで、誕生日プレゼントとして改まって恋人にあげるには安っぽい気がする。
では既製品ではなく手作りのものをあげるというのはどうだろうか。これならかけた金額に関係なく心の篭ったプレゼントと言えるかも。しかし当日まではあと四日。手先が器用ってほどでもない俺に作れそうなものとなると、大分限られそうだ。
「むぅ」
……一つ、確実にエリカが喜びそうなものに心当たりはある。プレゼントの定番といえば相手の趣味関係。そしてエリカの趣味といえば──、
「……嫌すぎる……」
俺はスバルと抱き合っている自分を想像して、そのあまりな負の破壊力にベッドに突っ伏した。
プレゼントに自らをや○いネタとして提供するなんて、たとえエリカがどんなに懇願したってお断りだ。スバルに提案したらあっさりと受け入れてくれそうだと思えるのもサムすぎる。
「あー、マジでどうしよう」
他の人は何あげるのかなぁ、例えば佐藤さんとか。エリカの大親友で、エリカの中での重要度は現時点で、悔しいけど多分俺以上……せめて同等くらいだとは思いたい。エリカのことをよく分かってる彼女なら、きっとここまでプレゼントに悩むこともないんだろうなぁ。俺もいっそ佐藤さんに相談に乗ってもらおうか。
「──いや待てよ。佐藤さん、手作り……」
問題を解くためのキーワードが揃った感覚。記憶の糸を手繰り寄せ、以前ちょっとだけ聞いた話を思い出していく。
うん、あれならいいかもしれない。
◆
「誕生日おめでとうエリカ!」
「ありがと」
そしてとうとうやって来た年末三十一日、エリカの誕生日。俺とエリカは、二人で乾杯し今日という日を祝った。
こうして俺の家でエリカと二人きりでいられるのは、乙女さんが実家に帰っているからだ。俺も一緒に来るかとは聞かれたが形だけ、乙女さんも分かっていたらしく「むしろ姫を置いて私と来ると言った方が怒っていたかもな」と気持ちよく笑ってくれた。
出掛けにしっかりなと、激励の意を込めて背中を叩かれたけど、景気のいい音に見合うくらいめちゃくちゃ痛かったけど、それ以上にすごく気合が入った。……いい人だよな、乙女さん。俺は、あの人の弟として恥じない男であるためにも頑張らなきゃ。
もちろん乙女さんだけではない。今日は佐藤さんも遠慮してくれたし、毎年一緒に年越しをしてたスバルたちにだって申し訳ないと思うし、みんなには感謝の念を払っても払いきれない。あのカニですら「……ま、せいぜい頑張れや」って応援してくれた。……アイツの大好きな屋台の食べ歩きが待っているわりに元気がなかったけど、大丈夫だろうか。スバルが付いてるんだから心配は要らないと思うけど……。
「レオ? どうかしたの」
「あ、いや、みんなに悪いことしたかなーって。エリカと二人きりで俺は嬉しいけど、エリカは良かったの? 佐藤さんにも祝って欲しかったとかさ」
「はぁ。もう、野暮ねえ。そんなこと言わなくてもいいでしょうが」
う、またやっちゃったか俺?
まだプレゼントも渡してないってのに機嫌を損ねてしまったかもと俺は慌てたが、エリカの顔を見て安心する。呆れを見せてはいるが機嫌は良さそうだ。
「ごめん」
「ん。まあよっぴーとはイブにたっぷりイチャイチャしたしね」
「へえ、イチャイチャですか……」
……羨ましくなんかないよ? ホントだよ?
「それに、お祝いの言葉もプレゼントも、もう昼間に貰ったから」
「そっか」
何を貰ったのと聞きたい欲求をなんとか抑えて頷いた。佐藤さんが何をあげたのかなんて、今さら知ったところで参考にも出来ないし、もしも俺にはまったく思い付かなかった、でもエリカにぴったりなものだったりしたらこのあと俺がプレゼントをあげにくくなってしまう。
「まあ居ない人のことはいいから、それより冷めないうちに料理を頂きましょうよ」
一瞬俺の呼吸が緊張で止まり、エリカがニヤリと更に上機嫌に、意地悪げに笑む。
「だって、せっかくレオが私のために作ってくれたんだものねぇ?」
「う、うん……」
そうなのだ。エリカの恋人としてより良くあるためのレベルアップ計画、その内の一つが料理の習得であり、今日はその成果の初お披露目となる。
これまで三ヶ月ほどスバルに師事してスキルアップに努めてきたが、料理の世界の奥深さといったら俺の想像を遥かに超えていた。多少サマになってきたとは思うけど、基本的に俺が習っているのは平素に食べるような料理であって、だからといって年に一度の誕生日の席に味噌汁だの野菜の煮物だのを出すわけにもいかないわけで、まあそれなりの苦労があったわけだ。
その甲斐あってか、練習台になってもらった乙女さんには美味いと言ってもらえたんだけど、乙女さんは努力したら誉めてくれる人で……、
「あらかじめ言っておくけど、不味かったら不味いって言うからね私」
でもエリカは結果を出さなきゃ誉めてくれないんだよなぁ。努力をまったく認めてくれないってわけでもないんだけど、それで手心を加えてくれるほどではない。夢が野望と書いてユメと読む人間だけあって、実力主義者なのだ。
「……覚悟してる」
「そ。じゃあいただきます」
「め、召し上がれ」
まずは煮込みハンバーグ(これくらいが俺の限界だ)に箸をつけるエリカ。猫舌な彼女は、やり過ぎなんじゃないかってくらい吐息で冷ましてから口に運び咀嚼する。
ゴクリ。
エリカの喉の動きにつられて唾を嚥下する俺。やばいくらいドキドキする。
「ど、どうかな?」
「んー。普通ね」
俺の肩がガクリと落ちた。いや別に悪い評価じゃなかいんだけどやっぱり美味しいって言って貰いたかったていうか。なんか言い方軽いし。
微妙に気落ちする俺を余所に、エリカは他の料理もどんどんパクついている。
「……普通っていうわりには随分美味しそうに食べてくれるんだね?」
「うーん、なんていうのかしらね。味は本当に普通なんだけど、レオが私のために作ってくれたんだって思うとすごく美味しく感じるっていうか……好きな人が自分のために料理を作ってくれるのって、こんなに嬉しいものなのね」
頬を赤らめたエリカの言葉に、俺の胸がジンと感激に打ち震える。
やべえ俺今めっちゃ嬉しい! 泣きそう、もしくは大声で叫びまわりたい!
「お、俺っ、もっと料理覚えるよ、エリカに毎日作ってあげるために!」
「ありがとうレオ。頑張ってね」
くーっ!! こんなに素直に感謝してくれるなんて、思わず言語中枢が西崎さん化してしまいそうだくーっ!!!
っていうか素直なエリカが可愛すぎて抱き締めたくてたまらないわけだが、そこをなんとか我慢だ。いくらなんでも食事中にそんなことしたらマズイもんな。
「あーっと、なにか希望とかある?」
どうせ練習するならエリカの食べたいものの方がいいからな。
「んー、じゃあとりあえず」
「うん」
「これちょっと熱いから、ふーふーして」
……今なら俺死んでもいいかも。
◆
幸せすぎてふわふわと熱に浮かされるようだった食事の時間も終わり、とうとうエリカに誕生日プレゼントを渡す時が来た。
今エリカの機嫌は最上、もしプレゼントが気に入ってもらえなくてもこれならそうマイナスにはならなそうだが……やっぱり、出来れば喜んでもらいたい。そう思い汗ばむ手を、上着のポケットに入れ自分でラッピングもしたプレゼントを取り出す。
「その……あらためて、ハッピーバースデー、エリカ。誰よりも早く渡すとはいかなかったけど、これ俺からのプレゼント……」
「ありがと。開けてもいい?」
とか言って、俺が返事を返す前からエリカは手早く丁寧にラッピングを外していく。
ああ、まだ心の準備が!
俺の内心の叫びは届かず、あっという間にエリカは中身を取り出して手に取る。それは手の平にすっぽり収まるサイズの布と綿のかたまり──手作りの人形だ。
「これは……もしかしてレオ?」
「あ、わかってくれた?」
「そりゃ分かるに決まってるじゃない。だってこれ」
「うん、まあ。参考にさせてもらいました」
佐藤さんと手作り、というキーワードから俺が思い出したのは、俺とエリカが付き合い始めたばかり、まだお互いを名前で呼ぶなんて許してもらえなかった頃に聞いたこと。エリカと佐藤さんが、友情の証としてお互い自分に似せた人形を作りそれを誓いの言葉を述べて交換したという話。実物も見たことがあるので、どう作ればいいのかはすぐ調べられた。
「でも私は自分の人形作ってないわよ?」
「それは別にいいんだ。その人形を愛の証にしたいってわけじゃないし。例えエリカがそれを失くそうが捨てようが、俺のエリカへの愛は変わらないもん」
「うわぁ、そんな恥ずかしいことを臆面もなく」
「だってホントのことだし」
なんて言って、実は顔が火噴きそうなくらい恥ずかしいんだけどね?
「うー……こいつってばまた熱くなってるし。こっちが赤くなっちゃうじゃない」
ぼそぼそ呟くエリカ。ええ、まるで林檎のようです。
「……んじゃあ、一体どういうつもりでこれを私に?」
「決意表明、てとこかな。俺が努力するのは何のためなのか、その理由を一度カタチにしておきたかったんだ。万が一挫けそうになったとき、それを思い出してまた頑張れるように」
人間ってのは弱い生き物だ。どれだけ意志を強く持とうと、辛さに負けてしまいそうになることだってある。でも目標さえ見失わなければ、たとえ倒れてもまた立ち上がることが出来るのも人間だ。人形としてカタチにした誓いは、もし人形自体が失くなっても俺の中ではけして見失われない明確なモノとして残ってくれると思ったんだ。
「なるほどね。なんとなくレオの考えは分かったけど……これを私の誕生日プレゼントにする必要があったの?」
「え?」
あれ、そう言われるとあんまり意味が無いような、プレゼントとしての趣旨を外しているような……。
「え、えぇとそれはほら、自分の決意のカタチを好きな人に持っていてもらったらより一層励みになるというか」
「つまり私の誕生日プレゼントは、対馬クンの自己満足に使われたわけだ」
「えぇ!? い、いやまってよ、そういうつもりじゃ……」
ど、どうしよう、もしかして俺取り返しのつかないことした?
挽回のセリフも思いつかず、みっともないほど狼狽する俺を憮然として眺めるエリカは、突然プッと吹き出した。
「あはは、そんなに慌てなくても、別に私怒ってないよ」
エリカはそう言って今度は顔をにっこりと綻ばせ、呆然とする俺の手をとった。
「料理で作った切り傷やら火傷かと思ったけど、裁縫による刺し傷のせいだったわけね、この絆創膏だらけの指は」
「う、うん……」
指を一本一本優しく撫でられ、俺はドギマギして頷いた。
「私もね、裁縫なんて全然したことなくて、ちっちゃな人形作るのに随分と苦労したわ。だからレオがどれだけ一生懸命になってこの人形を作ったのかも、分かるつもりよ」
俺の全ての指を撫で終わると、テーブルに置いた人形を両手でそっと包み込み、エリカは胸に抱き締めた。
「それだけで、これは十分素敵なプレゼントになるわ。ありがとうレオ、大事にするわね」
……今日一日で、俺はまたどれだけ、より以上にエリカのことを好きになったのだろう。彼女の新しい側面、知らなかった顔を見るたび、俺はどんどんエリカの深みにはまっていく。もう既に抜け出せないところまで来てるけど、まだまだ底は見えそうにない。
──自惚れを許してもらえれば。今のエリカの表情は、恋する少女のソレであるように思えたんだ。
ぽーっと見蕩れ、忘我にあった俺を呼び戻したのは、エリカがクスリと漏らした笑い。でも、と前置き彼女は訊いた。
「どうしてこの人形のレオは、騎士みたいな格好してるのかしら」
「それはまあ……やはり俺の決意というか希望というかの現れというわけで……」
フーンと、ニンマリした笑みを浮かべるエリカ。う、また俺いじられるのか?
「じゃあ私はお姫様の格好した自分の人形を作って、レオにあげればいいのかしら?」
「それは……嬉しいけどプレゼントの意味がホントになくなっちゃうような気がする」
あげて貰ってじゃプラマイゼロだ。エリカは肩をすくめ、同意も否定もしなかった。
「まあ、なんにせよ私がレオのことを私の従者として真に相応しいと認めてからの話だけどね。でも、もしその日が来たらよっぴーとの時みたいに人形交換してあげてもいいかな」
「────愛を誓う言葉を交わして、ね」
……間違いなく、今までの人生の中で一番衝撃的で──最高に喜ばされた言葉。
ちょっと悔しい。この一瞬はきっと、よぼよぼの爺さんになったって忘れられない。そんな一生もののプレゼントをまさかエリカの誕生日に俺が、祝うべき相手から貰ってしまうなんて。
また一つ、俺が果たすべき努力が増えたなぁ。
「そういうことだから、せいぜい死ぬ気で頑張りなさいな。そうね……さしあたってはレオの次の誕生日までに、とりあえずの仮免くらいには最低でも辿り着いてみせて欲しいかなぁー」
あんまり待たされても、私気の長い方じゃないしと厳しいことを言ってくださる。
「よろしくね、私の騎士(ナイト)クン」
「……お手柔らかに、俺の姫」
──この日から。俺の『姫』はみんなの姫と違う、特別な呼称となったんだと思う。
-end.-
【後書き】
というわけでいきなりのつよきす、姫誕生日おめでとうSS。直前までカレン祭り用SSを書いていたわけで、実は私も作中のレオと同じく四日でこれを準備してたり。いつもこれだけ頑張ればいいのにねぇ。
そんなわけで本当はもっとつよきすらしく随所にパロを仕込んだりとかしたかったんだけど、時間もうありません。せめて連日の飲み会がなければ……年末は色々大変です。
っていうかタイトルがあんまりすぎる……決まらないときはホント一番苦戦する箇所かもしれません。いつか唐突に差し替えるかもな!
それからソースのタイトル付近を見ると私が姫に怒られてしまうので見ちゃダメだよ?